インタビュアー:岸田 / ゲスト:清水

【発覚・告知】

岸田 清水さんの病名やステージ、闘病時期、今現在どんな状況なのかっていうことを、お聞かせください。

清水 はい、舌がんっていう、舌にできるがんです。手術、放射線、抗がん剤と治療をやりまして、最終的に最後の抗がん剤が終わったのが2014年の3月です。今は、定期的な検査で、経過観察中というような状態です。

岸田 ステージは?

清水 ステージはですね、いちばん始めは先生からは2くらいだと言われました。

岸田 ステージ2。

清水 治療のところで詳しくお話ししたいと思うんですけれども、結果的には首のリンパ節にがんがすでに転移していて、 あとからステージ3だったっていうことがわかりました。

岸田 あとでわかったんですか。

清水 そうです。

岸田 がんが見つかったまでのことを、お話ししていただきたいのですけれども。

清水 あの、泣いちゃうかもしれないんで(ハンカチを取り出す)。

岸田 ?

清水 置いときますね(ハンカチを置く)。

岸田 はい、ありがとうございます(笑)。

清水 ちょうど3年前の夏ぐらいのときにちょっと舌に違和感があったんですね。

岸田 舌に違和感が。

清水 そうです。

岸田 どんな違和感でした?

清水 ちょっと、ひゅっと押すと痛いだとか、歯磨きしてるとちょっと当たる感じが変だなとか。でも、普通の人でも口内炎とかできるじゃないですか。まったく気にも止めていなくて、「ちょっと疲れ気味なのかな」っていうような感じだったんですね。それで、最初はラクトフラビンていうビタミンB剤を飲んでたりしていたんです。

岸田 はい。

清水 そのころ、仕事の量も殺人的な忙しさでした。

岸田 殺人的な忙しさ(笑)。

清水 休日出勤しても、有給休暇を取ることはまずないような感じだったので、医者に行こうなんてこれっぽっちも思わなかったんですよね。でも、だんだん違和感が強くなってきて治らないのでちょっと心配になって、かかりつけの内科に行ったんです。

岸田 はい。

清水 塗り薬を出してもらって「これ塗っといてください」と。じゃあ、たいしたことないんだな、これ塗っとこうと思って塗ってたんです。それで1か月ぐらいしても全然治らなくて、だんだん痛さも増してきたんです。

岸田 あ、痛いんですか。

清水 んー、そのころはまだそんなに痛くなかったんだけど、ちょっと押したりとか硬いものを食べたりすると、痛いなと感じました。

岸田 なるほど。

清水 でも、全然気にしないで、毎晩お酒を飲み……。

岸田 けっこう膨れてきますか?

清水 や、全然。

岸田 全然?

清水 口内炎とかは、赤く腫れたりとかするじゃないですか。そういう感じじゃなくて、表面がちょっと白っぽくなってるかなーっていうぐらいだったんです。 それで、ちょっとこれは、内科じゃなくて違うところに行こうと思って。ただそ のときはまだ、がんに対する知識とかがまったくないので、どこに診せに行けば いいのかわからなかったけど、ベロのとこだったら……って思って。そこで、近所の耳鼻咽喉科に行って診てもらって、またそこで、塗り薬をもらったんです。「これを塗っといてください」、「わかりました」。これは別の薬だし、これを塗ってれば良くなるかなと思っていたんで す。それで、また1か月くらい経っても 全然治らなくて、だんだん痛みが強くなってですね、おかしいな……やっぱり耳鼻咽喉科は違うんだな、よし歯医者さんに行こう、と(笑)。

岸田 歯医者さん。

清水 歯医者さんに行って。歯医者でも塗り薬をもらって、これを塗ってください。何度か行ってるうちに、もう年末を迎えて、年を越えて、まあ、数か月くらい経っちゃったんですね。だんだん、ほんとに食事をするのにも痛くなってきて、これはちょっと普通じゃないな、って ……。

岸田 そのときは、なんと診断されたんですか。

清水 特に何もなく。

岸田 何もなく。

清水 とにかく炎症を起こしてるからっていう感じだったんです。それで、ネットで調べて今行っている口腔外科というところに行きました。

岸田 口腔外科、はい。

【告知】

清水 自分の住んでるところの近くにある口腔外科で簡単な検査を受けました。「ルゴール」っていう名前の。

岸田 ルゴールって、あのイソジンとかの、あのルゴールですか?

清水 うんうん。液を塗ったあとの色の付き方で悪性かどうかわかるっていう検査らしいんですよ。ひょっとしたらこれはがんかもしれない、でも、そういうふうには言われなかったんです。「これは 大きな病院で精密検査を受けた方がいいです。紹介状を書きますので行ってください」と、言われたのが、年を越した1 月でした。その口腔外科に行った次の週も忙しかったんですけど、すごく嫌な予感がして、しかも紹介状まで書いてもらったんで2月に病院に行ったんです。最初は若い先生からいろいろ質問されて、 歯医者さんにあるような椅子に座っていろいろ歯の状況を診られたりして、徐々にいろんな先生が来て、中堅の先生が診てくれて、最後に口腔外科部長の先生が診て、「これは、舌がんの疑いがある」 って言われたんです。

岸田 4〜5人に診てもらって。

清水 そうです。

岸田 ようやくわかったって感じなんで すね。

清水 そうです。先生に「がんの疑いとは言われるものの、じゃあどのくらいの確率ですか?」って聞いたら、その先生が「いやこれはもう、まず間違いないよ」って。それで、驚いて、マジッすか!(「マジッすか」と書かれた扇子を 取り出す)

 


岸田 マジッすかと(笑)。

清水 石のように、固まってしまったんです。

岸田 扇子、シュールすぎますね(笑)。

清水 初めて口腔外科に行ったときに、 CTとかPET検査とか、舌の一部を取る生検とか、いろんな検査の予定が全部決まってしまいました。

岸田 セカンドオピニオンを受けることもしなかったんですね。

清水 決まってしまったので、もう「なんでも来い」っていう状態でした(笑)。

岸田 なんでも来い。

清水 はい、わかりました、っていうような感じだったんですよ。

岸田 もうまず間違いないよ、って言われてから、どんな心境でした?

清水 将来死んでしまう病気だっていうふうに思い、頭が真っ白になって何も考えられないような状態ですよね。

岸田 まずそこで初めに清水さんがやったことってなんですか?

清水 とにかく、ずっと忙しく仕事をしてたので会社の人たちに「昨日先生にこう言われた」と伝え、自分の仕事を引き継ぐ人をあてがってくれ、という話を最初にしました。あとは何をしたかって言われても、何をしていいのかもわからないんですよね。

岸田 わからないですよね。

清水 ええ、みんなそうだと思うんです よ。まずはネットでとにかく調べました。 でもピンポイントの情報みたいなのっていうのはなかなかなくて、あっても医学的に難しいことが書いてあってよくわからなかったりとか、自分がいったい何に当てはまるのかっていうのは判断がなかなか難しいですし、それで、だんだん闘病記とか見るようになりました。

岸田 そこで何か有益な情報とかありました?

清水 基本的な舌がんってこういう病気なんだよ、っていうような、そういうことをある程度理解はできました。でもこれは役に立ったな、っていうところまで は、ちょっと至らなかったですね。

【家族】

岸田 家族のサポートはどうでしたか? どういうふうにカミングアウトしたんですか?

清水 家に帰ってかみさんに言ったら泣きだしちゃって、冷静な話ができなかったんですね。よくあの、家族は第二の患者だっていうじゃないですか。もうほんとにそういう感じだったんです。子どもが3人いるんですけれど、中3、中2、小学校5年生。女、女、男というような家族構成なんですよ。じつは、僕の母親が肺がんで亡くなってるんです。

岸田 肺がんで。

清水 そのときに子どもたちは7歳、5 歳、3歳、でした。

岸田 まだ幼いですね。

清水 母はがん告知されたときには肺がんが脳にまで転移していて、4か月で亡くなっちゃったんです。だから子どもの気持ちの中には、「がんっていうのは死ぬ病気だ」っていうのがあったんですよ ね。いちばん上の子どもが受験の年だったんで、かみさんと相談して、がんになったっていう話をすると「お父さん死ぬんじゃないか」って冷静でいられなくなってしまうかもしれないので、黙っておこうと。ちょっと口の中に、おできみたいなのができたんで入院するよって、がんっていうことは言わないで入院したんです。

岸田 ということは、お子さんは清水さんががんっていうのは….。

清水 まったく。疑いもせず。

岸田 そのときの奥さんのサポートとかはどうでしたか?

清水 かみさんは、自分ができることはとにかくやるしかないっていうことでいろいろやってくれたんですけれども、かみさんもどうしていいかわからなかったんだと思いますね。自分の体なのに、いったいどういうことが待ち受けているの か、わからない。何をやってほしいかっていう、そういったことも思いつかない。 とにかく入院の準備をして、とにかくがんばっていこうっていう感じで、入院しました。

【治療】

岸田 じゃあ、そのお子さんは知らないまま入院して、即手術ですか?

清水 そうです。手術の前の日に入院したんですけれども、初めのPET検査とか、CT検査だとかで舌がんはあるんだけれども、首への転移っていうのは認められなかったんです。でも、先生が「今くらいの大きさだと画像には映らない、 何ミリかのがんがすでに転移している可能性が高い」ということで、センチネルリンパ節生検(※1)をしました。

岸田 はい。

清水 たとえば乳がんの手術をしたとき に、いちばん近くのセンチネルリンパ節に転移があると、すぐにリンパ節を全部取るっていう手術をするらしいんですけれども、舌がんの場合は、舌がんの腫瘍を取ってそのいちばん近くのリンパ節を少し取って、一回生検をして転移があるかないかを確認するっていうのが、今の標準治療らしいんですよね。

岸田 手術では舌をどのくらい切ったんですか?

清水 4分の1から3分の1くらいの大きさです。そのときはまだ、しゃべることにも後遺症がなかったんですね。

岸田 なるほど。

清水 もちろん手術が終わったあとは、しばらくダメだったんですが、だんだんリハビリしていってしゃべれるようになったんです。そのリンパ節を少し取って検査をしたら、やっぱり転移があったというのがわかり、かなり広範囲のリンパ節を全部取る頸部郭清術(※2)を受けることになりました。このリンパ節を取るっていう手術をやったんです。

岸田 1回目の手術のどれぐらいあとだったんですか?

清水 2週間くらいあとだったかな

岸田 けっこうすぐですね。

清水 さらに主治医の先生から「もし複数か所に転移があったら、放射線治療をやります」と言われていたんですが、結局、がんとリンパ節とリンパ節の間のリンパ菅にもがん細胞があって、結果的に首のほうに3か所転移してたことが1週間後くらいにわかりました。それで放射線治療をやることになりました。

岸田 何グレイ(※3)くらいですか?

清水 46グレイかな。放射線は通院でやりました。そうだ、ちょっと話したいことがあります。

岸田 何でしょうか?

【保険】

清水 そのときに入っていた生命保険が 入院対応型で、通院するのにはお金が出ませんでした。

岸田 「出ない」出たー!(笑)

清水 今にして思うと通院対応型、そのあとまた、再発のあとに抗がん剤もぜんぶ通院でやったので、あの、通院対応型にしておけばよかったなって、これを見ているみなさんに言いたいです。

岸田 ははは(笑)。そうですよね。

清水 保険は通院対応型にしたほうがいいです。

岸田 そうですよね。最近、抗がん剤とかも通院でやることも多いですもんね。

清水 そうですそうです。

【仕事】

岸田 社会復帰についてはどんな感じでしたか?

清水 放射線が終わって2週間くらいは会社を休んで復職しました。

岸田 早いですね。

清水 社会人になって20年くらいずーっと仕事をして、とにかく仕事で活躍して評価をもらう、成果を出すことが人生の成功である、というような感じだったんですよ。会社の同僚が早く退院してがんばろうなってお見舞いにメッセージとかをくれたりするじゃないですか。すると、 よしじゃあもう、ここで周りの人に迷惑をかけちゃいけないとか、遅れをとっちゃいけないとか、ものすごい自分でそういうふうに思って、つまり無理をしたって今にして思うんですね。ほんとはもう少しゆっくり休んで、自分の体と向き合っておけば良かったかもしれないんだけれども、そういう考えのもとで職場に戻っていったんです。

岸田 みんなに迷惑をかけるから早く復帰したかったんですね。

清水 はい。でも復帰後、半年後に再発しました。

岸田 え、じゃあ半年くらいでもう? そのときはどこにできたんですか?

清水 右側の顎の骨の内側。

岸田 顎の骨の内側。

清水 それがわかったのが年末で、年明けにすぐ入院しました。

岸田 え、で、入院してからまた即手術。

清水 そうなんです。

岸田 次はどんな手術ですか?

清水 骨と肉の間に転移が早く、右顎の骨を全部取る手術です。

岸田 み、右顎全摘?

清水 なくなった骨の代わりにチタンプレートを入れて、肉の代わりに左の腹筋を取って移植してるんです。

岸田 うわー。

清水 血管をつなぐ手術なので 19時間かかったらしいです。

岸田 うわー。どれくらい入院してたんですか?

清水 1か月半ぐらい。リハビリもあったので入院が長引きました。

岸田 リハビリを終えて退院してからは?

清水 一回退院しましたが、がんが再発するっていうことは、すでに全身にがん細胞が転移している可能性があるということで、抗がん剤をやることになりました。

岸田 2回も手術されて、抗がん剤もですか……。

清水 自分の場合は2週間入院してシスプラチンとTS1を使いました。

岸田 けっこう副作用がある薬ですよね。

【反省】

岸田 あのときこうしておけば良かったなっていう反省ってありますか?

清水 ちょっとおかしいなって思ったときに、思い切って仕事を休んですぐに大きい病院に行けば良かったなっていうのは今でもちょっと思ってますね。仕事のことばかり考えていましたからね

岸田 なるほど。

清水 それと、最初のがんのときに会社や周りに迷惑をかけたくないという気持ちから、会社の人にうまく説明ができなかったので、これからこの病気と闘う人にはそのへんを注意してほしいと思っています。会社に産業医がいる場合は相談したほうが良いと思います。

岸田 産業医がいらっしゃる場合は、ぜひとも相談をするべきですね。

【お金】

岸田 お金とかってどれくらいかかりました? 傷病手当とか、減額給与とかは どうでしたか?

清水 入院してた間は入院保障っていう保険がありまして、最初の手術のときはがんの特約で、がんと診断されると最初にまとまったお金が入ってくる、っていう保険だったので助かりました。最終的に高額療養費制度(※4)とかで戻ってきたりして良かったです。でも、仕事ができない間って年収がどうしたって下がるじゃないですか。僕も去年一昨年は、 年収が200万円くらい下がりました。

岸田 それがお金の大変だったことですよね。

清水 それと僕はしゃべったり食べたりする障害があるので、身体障害者認定を受けていて所得控除になっています。

岸田 所得控除ですか。

清水 税金が安くなるんですよ。それと医療費控除。僕の場合は扶養家族の医療費も医療費控除になるので、医療の領収書を大切に保管しています。

岸田 そうですか。年金だったり補助みたいなのを駆使しているんですね。

清水 でもいちばん大きいのは、かみさんが何十年間の専業主婦にピリオドを打って働いてくれていることですね。

岸田 家族の支えですね。

清水 はい。

【辛いこと・克服】

岸田 飲めず食えず、ってことだったと思うんですけれども、精神的につらかったことを教えてください。

清水 今でこそなんとか話せていますが、 最初に手術したときに話が全然通じなくて人前で話をするのが恥ずかしかったです。

岸田 そうなんですね。

清水 話が通じないことを克服していくことが自分としてはつらかったですね。 それで、あのOCTに応募したんです。

岸田 OCTはオーバーキャンサートゥギャザーというがん経験を話して共にがんを乗り越えようというプログラムです。

清水 そうそう。とにかく大勢の前で話せば、少しはその気持ちが変わるだろうと思って応募したんです。

岸田 実際変わりました? どうでした?

清水 みんなの前で話すことによって 「よし、なんとかなるかな」っていうような気持ちになりましたね。

岸田 じゃあ、今、舌がんでちょっとしゃべるのが不自由な人は、人前でもっと 話す経験をしたらいいのかも知れませんね。
清水 はい、そう思います

【キャンサーギフト】

岸田 清水さんががんになって良かったなって思うことを教えてください。

清水 がんになる前の自分は頭の中の99 %が仕事で、どうやって成果を出してどうやって評価を受けようか、とばかり考えたんですね。でも、今はそれよりも自分のことであったり、家族のことであったり、みんなとがんを克服しようっていうボランティアみたいなことをすること で、考え方にバランスがでてきたと思う んですね。それはすごく良かったなって 思いますし、がんノートに出させてもらったことがひとつのギフトであって、そういう活動をしてる岸田くんがほんとに 「グッジョブ」ていう感じですね。

【今、闘病中のあなたへ】

岸田 清水さんからメッセージをお願いできますか?

清水 「がんになった事実は変えられないけど、がんになったことの意味は変えられる」ということです。がんに限らず、いろんな人生の出来事ってすべて同じだと思うんですけれども、その受け止め方って同じ病気でも人によって全然違うんですよね。がんをどう受け止めるかっていうのが、がんという治療を乗り越えて、また前向きな自分に戻っていくためにとても大切だと思うんです。がんになったことは、もう仕方のないことなんで、いかにそれを、キャンサーギフトとして捉えるのか、ものすごく悲しい出来事だとして捉えるのか、それは自分の考え方しだいなので、ぜひみなさんにお話ししたいです。

岸田 自分ががんになった意味をもう一度考えてみる、ということですね。

清水 もう一度、自分を見つめ直すいい機会だと思います。毎日、がんばっていきましょう。


※1 セチネルリンパ節生検……乳腺から流出したリンパ液がいちばん最初に入り込むリンパ節が、セチネルリンパ節。ここを調べて、がんが転移していないかを調べる。

※2 頸部郭清術……頸部のがん細胞などの悪性物を切除する手術。

※3 グレイ……放射線の単位。1回の放射線治療では2~3グレイ程度の放射線が投与される。

※4 高額療養費制度……同一月にかかった医療費の自己負担が高額になった場合、自己負担限度額を超えた分が、あとで払い戻される制度

※本ページは、経験者の体験談を扱っております。治療法や副作用などには個人差がございますので、医療情報に関しましては主治医や、かかりつけの病院へご相談、また科学的根拠に基づいたWebページや情報サイトを参照してください。
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